降灰と掘採

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DATE

July 15, 2024

降灰と掘採

高校卒業後、私は鹿児島から東京のデザイン専門学校に進学しました。高校時代、バスケットボールに夢中だった私は、早くからデザインや美術の基礎を積んだ友人たちに圧倒され、毎日の授業についていくのに必死でした。色濃い学生時代はあっという間で、最終学年の卒業制作では家具デザインを専攻することにしました。独自性はどうやったら出せるのか、どうすれば斬新な発想が思いつくのかと日々模索する中、ふとクラスを見回した時、鹿児島出身は私だけということに気づきました。「故郷をテーマにしてみよう。そこから自分にしか思いつかない作品ができるのではないか」と思い立ち、卒業制作の糸口を探しに鹿児島に戻りました。

小学生の時以来、久々に田舎の祖母の家に泊まり、1週間ほど一緒に過ごし、色々な話をしました。その中で、亡くなった祖父が営んでいた建設業は瓦屋から始まり、土壁や瓦を葺くのに近くの山で土を掘って使っていたということを知りました。草や木の根をかき分けながら教えてもらった場所を掘ると、シャベルにグチュッとした感触があり、赤い土が出てきました。明らかに普通の土とは違う、天然の粘土でした。その土を目にした瞬間、独自性のあるものを作らなければならないという重圧が消え、自然にこの土を使って何かを作りたいという気持ちが芽生えました。卒業制作ではその土で、左官の技術を使った椅子を製作しましたが、この体験は私の人生における重要な転機となりました。ものづくりには、新しいものを生み出すだけでなく、自然や自分自身との対話、そして周囲の人々との繋がりを深めるきっかけという側面もあることに気づいたのです。

それから25年の月日が流れ、紆余曲折ありながら、現在は鹿児島に工房を構え、自然に囲まれた場所で創作活動を行っています。この度、東京の伊勢丹新宿店で作品を展示させていただく機会を得て、久しぶりに学生時代の記憶が蘇りました。ある研究によると、人は移動するほど幸福度が高まるそうです。この研究では、新しい場所に行くなどの探索的な活動をする日には、より幸せを感じる傾向があるというデータが示されています。私の場合も、鹿児島から東京への移動は新たな学びと自己発見のきっかけとなりました。さらに、鹿児島で制作した作品を東京で展示することは、距離だけでなく時間を超えた旅の一環にも感じられます。

今回は "降灰と掘採" と題し、伊勢丹新宿店にONE KILNが展開する「ASH」と「CULTIVATE」シリーズの全作品を展示いたします。さらに、「ONE KILN Reproduction」によって生まれ変わった金継ぎ作品の展示や、鹿児島の工房の雰囲気を伝える展示棚もご用意いたしました。この展示が皆さまにとって、日常から少し離れた新たな探索の機会となれば幸いです。

私たちの作品が皆さまの心に新たな風を運び、生活に彩りを加えることを願いつつ、ご来場を心よりお待ちしております。

ONE KILN POP UP "降灰と掘採"
2024年7月17日(水)~8月7日(水)
伊勢丹新宿店 本館5階 セレクトショップ
10:00~20:00
作家在店日: 7月17日、7月20日

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